「その写真」を見たとき、瞬きをくり返して困惑した。
「は?」と思わず声が出そうになった。
当時、僕は大学の芸術学部に通う学生だった。
いつものように授業が始まる。
美術史の授業だ。
教授がスクリーンに「その写真」を映し出した。
「…芸術に裏切られた」
その写真を見たとき、そう思うくらいショックだった。
隣の学生が姿勢を変えたときに椅子がミシッときしむ音が、自分の心の音かと思ったほどだ。
僕が芸術学部へ進学したのは、美しい芸術について学びたかったからだ。
それなのに、なぜ僕の目の前には「こんなもの」が映し出されているのか?
なにかの間違いか?
まずい、人生の選択を間違えたかもしれない。
なぜなら写真の中には、芸術とは思えないものが写っていたからだ。
それは男性用小便器だった。

実際に僕が大学の教室で見た写真
便器が20世紀最大の芸術?
「これだから芸術は…」
あの写真は当時の僕にとって衝撃的な出会いだった。
あなたは、この便器が「イギリスの美術専門家500人が選ぶ20世紀で最も影響力のある芸術作品ランキング」で1位を獲得したと言ったら、信じるだろうか?
(ちなみにピカソの『アヴィニョンの娘たち』が2位だった)
「これだから芸術はわかんないんだよ」
と思ったのでは?
(当時の僕はあなたと固い握手をするはずだ)
だがこの便器は、偉大な芸術だ。
なぜ、ただの便器が芸術になるのだろう?
(それも歴史に残る偉大な芸術に…)
これは興味深い現象ではないだろうか?
「面白い話だけど、私になんの関係が…?」
なるほど。
確かに美術史の話は、あなたの生活を直接変えるとは思えないかもしれない。
だが、実はかなり関係しているのだ。
この便器の物語は、あなたの発信を変える大きなヒントを教えてくれる。
どういうことか、説明しよう。
ストーリーテラーが
この便器を無視できない理由…
それは「便器が芸術になる理由」がわかれば、「価値」の正体が分かるからだ。
この便器は、マーケティングの真実を伝えてくれる。
「価値はコンテキストが創る」という真実を。
あなたに聞きたい。
もし「便器を芸術に変える方法」があるとしたら…?
その原理を応用したら、あなたのコンテンツをもっと価値あるコンテンツにできるのでは?
もちろん可能だ。
便器の物語を通して「価値はコンテキストが創る」ことを理解するだけでいい。
さて、この便器について、もっと知りたくなったのでは?
今回は「コンテンツとコンテキスト(=文脈)」という視点でストーリーブランディングを学んでいこう。
この記事を最後まで読めば、あなたは「価値の創り方」が分かるはずだ。
「価値の創り方」は人を集めることにも、商品を売ることにも役立つだろう。
それは便器を芸術にするより、はるかに簡単だ。
この記事は以下の2部構成で進めていく。
- コンテンツとコンテキストの関係とは?
- コンテキストの創り方
まず「コンテキストとは何か」を理解し、それからあなたがコンテキスト(価値)を創る方法を伝えようと思う。
準備はいいだろうか?
では、ストーリーブランディングの新たな知的冒険へと旅立とう。
第1章
コンテンツとコンテキストの
関係とは?
あるいは便器を芸術にする方法
なぜゴッホは、生前に数枚しか絵が売れなかったのだろう?
今では世界的に大人気の画家ゴッホ。
コンテンツ(絵画)に価値があるなら、生前から評価されていたはずだ。
あるいは、アメリカで最も人気のあるチューイングガムのエクストラガム。
一時は大幅に売り上げが落ちたものの、再びアメリカ市場でNo. 1に返り咲いた商品だ。
他にも腐るほどガムは売られているのに、なぜエクストラガムが選ばれたのか?
(しかも、人気が落ちていた商品だったのに!)
あなたはゴッホとエクストラガムが
なぜ成功したか即答できる?
もし即答できないなら、続きを読んでほしい。
ゴッホとエクストラガム。
「時代」も「提供するコンテンツ(絵画とガム)」も違う両者には、実は共通点がある。
その共通点が、両者の成功に結びついたのだ。
その共通点は「適切なコンテキストを設定した」ことだ。
「結局コンテキストってなんのこと…?」
とあなたは思うかもしれない。
一言で表現すると、コンテキストとは「関係性」のこと。
「コンテキストを設定する」とは、ストーリーテラーとオーディエンスの関係性を構築することだ。
関係性というコンテキスト(文脈)が、コンテンツの価値を創るのだ。
…まだピンとこないかもしれない。
だが安心してほしい。
ここからが「コンテキストの謎を解く冒険」の本番だ。
さて、早速コンテキストの秘密を紐解こう。
謎解きのヒントは、あの便器が握っている。
便器を芸術にした1人の男
1917年、ニューヨークのとある一室。
まるでジャズピアニストがピアノを演奏するように、1人の男がタイプライターを激しく叩いていた。
男がタイプライターで演奏していたのは、日記でもラブレターでもなく、抗議文だった。
男の名前はマルセル・デュシャン。
のちにモダンアートの父と呼ばれる男だ。
デュシャンはとある展覧会に、偽名で『泉』という作品を提出した。
だが『泉』は展示委員によって、出展を拒否されてしまったのだ。
(この展覧会は、無審査、無償、自由出品を原則とする展覧会だったのに!)
デュシャンはこれに対して、抗議文を演奏していた。
どうして『泉』は出展されなかったのか?
なぜなら『泉』は、僕が講義室で見た、あの便器だったからだ。
「こんなもの芸術とは言えない!」
展覧会の委員は『泉』を認めなかった。
その後、デュシャンは自身が運営するアート雑誌に、『泉』の写真を載せた。
その1枚の小さな写真が、世界を大きく変えることになる。
「これはただの便器じゃないか」
「既製品は芸術になるのか?」
「もしかしたら、これが新しい芸術の在り方なのか?」
人々は困惑しつつ、便器から聞こえてくるデュシャンの声に耳を傾けた。
デュシャンは『泉』を通して叫んでいた。
「俺が芸術をぶっ壊してやる」
芸術が嫌いな芸術家
デュシャンは芸術が嫌いだった。
いや、正確には当時の芸術家の態度が嫌いだった。
「先人たちと同じ土俵で、同じ行為をいかに上手にできるかを繰り返すことが、本当に芸術と言えるのか?」
デュシャンはそう思っていた。
デュシャンは僕らの言葉で言う プロッターにうんざりしていたのだ。
「考え方を変えなければ、芸術は死んでしまう」
そしてこの危機感は、デュシャン1人のものではなかった。
この危機感の背景には、あの歴史の悲劇があったのだ。
あなたの大切な人が
殺される光景を想像してみる…
デュシャンが抗議文を書いたのは、第一次世界大戦の最中だった。
第一次世界大戦は当時、史上最大規模の戦争であり、7000万人もの軍人が動員され、そのうち戦闘員900万人以上、非戦闘員700万人以上が死亡した歴史の悲劇だ。
亡くなった軍人には、ひとりひとりに帰る家があり、帰りを待つ人がいた。
今、あなたの大切な人を思う浮かべてほしい。
もしその人が、戦場に駆り出されたとしたら…
そう考えたことはあるだろうか?
あなたと共に同じ時間を過ごし、夢を語り合ったその人が、戦場で撃ち殺され、軍靴で踏みつけられ、「最後にもう一度あなたに会いたい」と思いながら、人知れず冷たい泥水の中に埋もれていく。
その光景を思い浮かべながら、「戦争で勝利するための必要犠牲だ」と言えるだろうか?
大切な人を戦地へと送る日の朝、別れ際の玄関先で、なんと声をかけるだろう。
そのとき、あなたは何を思うだろう?
1917年を生きた当時の彼らは、こう思ったはずだ。
「どうしてこうなった…」
もしあなたの信じるものが、間違いなら…
第一次大戦の苦しみは、下記の記事で語ったヘミングウェイの場合も同じだ。
くそくらえ。 そう呟きながら、1人の若い作家がパリの小道を歩いていた。 彼女の“あの発言”に納得できるわけがなかった。 今から約100年前のことだ。 この作家の名前はアーネスト・ヘミングウェイ。 のちにノーベル文学賞作家となる。 若きヘミングウェイ...
当時の人々は、合理性が人類を幸福にすると信じていた。
産業革命を代表するように、合理性による科学文明が、人類を豊かにしたからだ。
だが科学は、戦場の武器の殺傷能力を跳ね上げた。
人間の合理性が、人間を殺したのだ。
誰もが「考え方を変えなければ」という足音を聞いていた。
…が、その足音が聞こえないフリをした。
常識に反することを恐れたのだ。
しかし、1人の男が「足音を聞け!」と拡声器で叫びだした。
その拡声器は便器の形をしていた。
便器が『泉』になるとき
当時の人々は、「考え方を変える必要がある」というストーリーを求めていた。
デュシャンはそんな人々のための泉(オアシス)を与えたのだ。
ひとつの便器に、人々は自分の声を見出した。
『泉』が自分の気持ちを代弁してくれたのだ。
芸術嫌いのデュシャンは、絵画や彫刻を創ることはしなかった。
その代わりに、ストーリーを語ったのだ。
『泉』とハリーポッターの
意外な共通点とは?
ストーリーテラーの僕らは以下のことを、デュシャンから学べる。
「コンテンツの価値はコンテキストが握っている」
デュシャンは美しい便器を創ったわけではない。
便器に芸術というコンテキストを設定したのだ。
- 日常のトイレにある便器
- 美術展覧会にある便器
上記2つの状況では、便器の意味が異なる。
意味が異なれば、価値も変わるのだ。
その便器が2つとも、全く同じコンテンツだとしても。
例えるなら、ハリーポッターのようなもの。
ダーズリー家にいるハリーは、邪険にされ虐められる存在だ。
だが魔法界にいけば、ハリーは有名人のスーパースターになる。
コンテキスト(=関係性を作ること)とは、そういうことだ。
オーディエンスと美術館の関係性が、便器を芸術にした。
魔法界とハリーの関係性が、ハリーを有名人にしたのだ。
このようにコンテキスト(関係性)が変われば、コンテンツの価値は変わる。
要するに、コンテキストとは「再定義」なのだ。
美術館に行くか、魔法界に行くか
ストーリーブランディングは、コンテンツ(あるいは人物)が、最も価値が高まるコンテキストを創ることだ。
コンテンツとオーディエンスの関係性を再定義することが、ストーリーブランディングなのだ。
素晴らしいコンテンツがあるのではない。
適切なコンテキストを設定したとき、コンテンツの素晴らしさが定義される。
あなた(のコンテンツ)は、どこにいけば意味を再定義して、価値を高められるだろう?
美術館?魔法界?
それとも…
あなたならどうやって
ゴッホの絵を売るだろう?
生前のゴッホは、数枚しか絵が売れなかった。
だがゴッホの死後、彼の絵は急激に売れるようになった。
なぜこのような現象が起きたのだろう?
それはゴッホの死後に、成功するコンテキストが設定されたからだ。
では、誰がどのようにしてコンテキストを設定したのか?
実はゴッホの死後、数少ない知人と親戚が、ゴッホと交わした手紙を世間に公開したのだ。
その手紙の内容から、ゴッホの色彩理論や、自然に対する深い洞察を、世間が知ることになる。
さらに、当時は古典的な芸術に対し、新たな芸術表現が流行していた。
ゴッホの斬新な画風は、新たな芸術表現を求める心理に刺さったのだろう。
このように、ゴッホは「無名の変な絵を描く人」から、「洞察力のある新たな表現者」と再定義された。
画家が「無名の変な絵を描く人」なのか「洞察力のある新たな表現者」なのかで、絵画の価値は変わる。
「誰によって(どんな人によって)描かれたか」というコンテキストが変わったからだ。
素晴らしい絵画を描くだけでは足りない。
その絵画の素晴らしさを共有するコンテキストが必要なのだ。
売上が低下したありふれた商品を
全米で1番の商品に変える方法
チューイングガムのような、ありふれた商品でもコンテキストによって価値は変わる。
あなたがチューイングガムを買う理由は?
数あるチューイングガムの中から、ひとつのガムを選ぶ基準は?
- 息を整えるため
- 味が長続きする
上記のような理由が思い浮かんだのでは?
だが、アメリカのエクストラガムは、1つのCMによってガムの価値を再定義した。
これがエクストラガムのCMだ↓
エクストラガムは、自社のガムを「人と繋がるためのツール」と再定義したのだ。
僕らがガムを買うのは、「息を整える」という機能のみを買っているわけではない。
僕らはガムを周囲の知人とシェアすることで、良い人間関係を築くことも求めている。
あなたも周囲の人間と友好な関係を保つために、小さな贈り物をした覚えはないだろうか?
- 息を整えるためのツール
- 人と繋がるためのツール
上記の異なるコンテキストでは、同じガムであっても消費者にとっては別の商品になる。
エクストラガムは自社商品が、購入者の人生とどう関わるかを再定義したのだ。
人と繋がるツールとしてガムを買う人に、いくら「こっちのガムは味が長続きしますよ!」と叫んでも、見向きもしないだろう。
「息を整えながら美味しいガムが食べたい欲求」より、「人と繋がりたい帰属欲求」のほうが、より根源的な欲求だからだ。
エクストラガムはコンテキストを設定し、ガムの意味を再定義したことで、全米チューイングガム市場のNo. 1になったのだ。
「で、私がコンテキストを創るには
どうすればいいの?」
…とあなたは思っただろうか?
もしそうなら、この先の内容はあなたにとって、もっと興味深いものになる。
後回しにせず、このまま読み進めよう。
デュシャンやゴッホ、エクストラガムのように、あなたもコンテキストを創ることはできる。
それはあなた自身(あるいはあなたのコンテンツ)の意味を再定義し、価値を生み出すことだ。
では、コンテキストはどうやって創るのか?
『泉』にとって美術館が価値を創ったように、あなたにとっての美術館を見つけよう。
第2章
コンテキストの創り方
ここまでの話をまとめておこう。
- コンテキストとは関係性のこと
- 関係性を変えることで、意味を再定義する
- 意味が再定義されたものは価値が変わる
あなたの持っている便器を、早く美術館に持っていこう。
あるいは、もしあなたがハリーポッターなら、いつまでもダーズリー家にいないで、早く魔法界へいこう。
そうするだけで、あなたの価値は高まるのだから。
…だが実際には、そう上手くはいかない。
きっと美術館は、あなたの家の便器を展示してくれないだろう。
(デュシャンでさえ、展示してもらえなかった)
もしあなたがロンドンのキングス・クロス駅の柱に突進したとして、(その心意気は称賛するが)たぶん荷物を駅にぶちまけることになる。
「じゃあどうすれば…」
安心してほしい。
僕はホグワーツへの行き方を教えることはできないが、コンテキストを設定する方法ならシェアできる。
あなたに都合の良いコンテキストが見つからない場合、自分でコンテキストを創ればいい。
では、コンテキストはどうやって創るのだろう?
コンテキストを創る三種の神器とは?
コンテキストを創るために3つのポイントがある。
それが以下の3つだ。
- 誰のために
- 何のために
- なぜ自分が
僕はこの3つを「コンテキストを創る三種の神器」と呼んでいる。
この三種の神器をオーディエンスと共有することで、コンテキスト(関係性)は創れるのだ。
三種の神器のそれぞれが、何を意味するのかを一緒に学んでいこう。
三種の神器
「誰のために」
オーディエンスと関係を創りたいなら、あなたが関係を創りたい人を特定すべきだ。
すべての人と仲良くすることはできない。
その代わり、特定の人々と強い絆を作ることはできる。
デュシャンも『泉』を発表した際、賛否両論の嵐だった。
今でこそ美術史で重要な作品と見なされているが、当時は(特に伝統的な価値観の人は)デュシャンの価値観を嫌う人は多かっただろう。
だがデュシャンは伝統的な価値観の人々を無視した。
デュシャンは新しい価値観を持ちたい人々の心を刺激したのだ。
ダイレクトマーケティングの世界的権威である、ダン・ケネディはこんな言葉を残している。
「1日1人に嫌われろ」
これは、嫌う人が出るほど自分の主張をはっきりさせろということだ。
嫌う人がいるということは、その分あなたを好きな人もいる。
これはあなたに覚えてほしい事実だ。
99%に嫌われてもいい。
残りの1%を熱狂的なファンにさせよう。
「でも嫌われるのは怖い…」
「1%なんてビジネス的に少なすぎるんじゃ…」
なるほど、確かに嫌われるのは怖いだろう。
1%という数字に不安を覚えるのもわかる。
だがこう考えてみよう。
もしあなたが日本の人口の1%を熱狂させたら?
あなたのファンは120万人いることになる。
1%は120万人のファンを意味するのだ。
そこからファンをさらに増やすかどうかは、あなた次第。
だがまずは1%に響く発信をしよう。
ボーナスヒント:
「どんな人と仲良くしたい?」と考えても、意外と具体的には考えられないもの。
なぜなら、できるだけ多くの人と仲良くしたいと思ってしまうから。
そんなときは「どんな人とは関わりたくないか」を書き出そう。
それも素直に、正直に、大胆に。
書き出したリストは、誰にも見せない代わりに、本音で書こう。
そして書き出したリストを眺めれば、「本当に仲良くしたい1%の人」も浮かび上がってくるはずだ。
あなたは誰の味方になりたいだろう?
あなたはどんな価値観の人を先導したい?
先導したい人が決まったら、次はあなたには何ができるかを伝えよう。
三種の神器
「何のために」
あなたに重要な質問をしたい。
あなた(のサービス)は何のために存在するだろう?
あなたはオーディエンスのどんな問題を解決できる?
この質問の答えが、コンテキストを支える柱の1つになる。
人は誰でも問題を抱えている。
そしてその問題を解決してくれる人と関わりたいのだ。
だから「自分はどんな問題を解決できるか」を提示しよう。
それがオーディエンスと関係を築く第一歩にもなる。
あなたが解決すべき
「横と縦」の問題とは?
人間の抱える問題は無限にある。
痩せたい、お金を稼ぎたい、モテたい・・・
こういった横に広がる問題に対し、その水面下に隠れている縦に深まる問題もある。
実は問題には見えないレイヤーがあるのだ。
横に種類が広がる問題を「表層の問題」、縦に深まる問題を「深層の問題」と呼ぼう。
「表層の問題」は数字で表現できるような、目に見える解決が必要だ。
先ほどの、痩せたい、お金を稼ぎたい、モテたい、などは表層の問題である。
これはオーディエンス自身が自覚する問題であることがほとんどだ。
一方、深層の問題は精神的な解決なので、目に見えない。
そしてオーディエンスが本当に解決したいのは、深層の問題である。
痩せたいのは、自信をつけたいからかもしれない。
お金を稼ぎたいのは、将来の不安を消したかったり、自分の生活に安心感がほしいからかも知れない。
モテたいのは、人間関係に不安を感じていたり、自己重要感を求めているのが本質かもしれない。
あなたは誰の、どんな問題を解決できるだろう?
ボーナスヒント:
エクストラガムは「表層の問題」と「深層の問題」を見事に解決した。
表層の問題:美味しいガムがほしい
深層の問題:ガムを送り合うことで人間関係をスムーズにしたい
エクストラガムのように「表層の問題」と「深層の問題」の両方を解決することが大事だ。
この考え方はストーリーテラーとって重要なので、改めて別記事で深掘りしようと思う。
関連記事として以下の記事も参照してほしい。
あなたが解決できる問題も共有できた。
だがオーディエンスには、もうひとつ教えてほしいことがあるようだ。
「で、あなたは誰なの?」
三種の神器
「なぜ自分が」
現代は情報で溢れている。
だからこそ皆「信頼できる人からの情報」を求めている。
「で、あなたは誰なの?」に答える必要があるのだ。
では「信頼できる人」とはどんな人だろう?
有名な大学を出てる人、輝かしい実績がある人、本を出版してる人・・・
…とあなたは思うだろうか?
しかし現実を見てみよう。
高学歴で本を出版している社長より、人気YouTuberが信頼されたりする。
このYouTuberが大学を卒業しているかなんて、誰も気にしない。
なぜこんなことが起こるのか?
僕らの脳は、もっと原始的な感覚で「信頼」を感じているからだ。
それは「価値観と感情」だ。
僕らには「自分の価値観は正しい」と思いたい欲求がある。
だから自分の価値観を肯定してくれる人に好意を抱くのだ。
(あなたは間違ってない!あなたは正しい!)
そして不思議なことに、好意を抱く人を、僕らは信頼してしまう。
だから自分の価値観を表現すれば、同じ価値観の人があなたのもとへ集まるだろう。
自分の価値観を明確にすることは、三種の神器の「誰のために」を明確にすることにもつながる。
価値観を表現する方法はたくさんある。
ここでは簡単な方法を2つ紹介しよう。
- 好き嫌い
- 立場を明確にする
あなたの好みをあらゆる場面で表現しよう。
なにが好きで、なにが嫌いなのか。
自分の好みを表現することで、あなたの価値観が滲みでてくる。
デュシャンは「古典的な芸術が嫌い」だとハッキリと主張した。
そんなデュシャンのパーソナリティが、『泉』のコンテキストを支えているのだ。
また、自分の立場を明確にしよう。
とある議題(賛成/反対がわかれたり、意見がわかれたりするもの)を前にしたとき、自分はどちらの立場なのかハッキリ主張するのだ。
もちろん立場を明確にすることで、嫌われることもあるだろう。
そんなときはダン・ケネディの「1日ひとりに嫌われろ」という言葉を思い出そう。(よし、今日のノルマ達成!)
もうあなたも分かっていると思うが、人(の脳)は自分と似ている者を信頼する。
価値観がまさにそうだが、感情もまた同じことが言える。
人は感情が同期したときに好意と信頼を感じる。
そして脳科学の実験で、感情は伝染することが証明されている。
つまりあなたの専門分野に関する情熱を表現することで、あなたは信頼を得ることができるのだ。
さらに「なにに情熱があるのか」を語ることは、あなたのパーソナリティを表現することにもなる。
情熱を語ることは、「で、あなたは誰?」に答えることになるのだ。
真面目で勉強熱心な人ほど、感情表現を忘れがちになる。
だから常に「感情表現できる箇所はないか」と意識してみよう。
ボーナスヒント:
「価値観と感情」を表現することで、良くも悪くも絶大な影響力を持った人物がいる。
アドルフ・ヒトラーだ。
ヒトラーは「価値観と感情」の表現が、抜群に上手かった。
戦争に敗れ、虐げられていたドイツ国民に「我々は優秀な民族だ!」という価値観を、語り続けた。
それはもう情熱的に…。
あなたはヒトラーの演説映像を観たことがあるだろうか?
手を大きく振り上げ、体が前後に揺れるほど、感情を爆発させて演説するあの姿を。
当時の虐げられていたドイツ国民は、導いてくれる人を求めていた。
そんな状態で、あれだけ情熱的に語られたら、こう思ってしまうのも無理はない。
「そうだ…僕らは本当は優秀なはずだ…この人ならドイツを復活させてくれるかも…!」
こうしてヒトラーは「価値観と感情」で絶大な信頼を得た。
この記事を読んでいるあなたは大丈夫だと思うが、「価値観と感情」を悪用しないように、改めて心に誓ってほしい。
あなたが価値を
自由自在に操るために
さて、ここまで語ってきたことを、改めてまとめよう。
- 価値はコンテキストが支えている
- コンテキストとは関係を築くこと
- 関係を築くことで、あなた(のサービス)の意味が再定義される
- コンテキストで意味を再定義するために「誰のために、何のために、なぜ自分が」を表現する必要がある
ここまで読めばあなたも分かると思うが、実はコンテキストは トライバルストーリーのことだ。
トライバルストーリーがあなたとオーディエンスを接着剤のように結びつける。
トライバルストーリーは、ストーリーテラーの主張だけを語ることではない。
と同時に、オーディエンスに迎合するだけでもない。
あなたの内なる声。
オーディエンスの声なき声。
この2つがトライバルストーリーを創るのだ。
どちらの声も知るべきだが、まずはあなたの内なる声に耳を傾けよう。
ストーリーテリングは、あなたが本当の自分を生きるためにあるからだ。
自分の物語を語ることで、あなたはこの世界に自分の道を創ることができる。
僕はそう信じている。
もし内なる声のヒントがほしければ、 アーキタイプを参考にするのもいいだろう。
ちなみにデュシャンは反逆者のアーキタイプだ。
古典的な芸術を、便器ひとつで破壊したデュシャンは、まさにアート界の反逆者だった。
初期のAppleやハーレーダビットソンも、反逆者のアーキタイプの体現者である。
あなたのアーキタイプを知ることで、内なる声を見つけるヒントになるかもしれない。
ストーリーを語るとは、自分を知ることなのだ。
「我物語る、ゆえに我あり」である。
「内なる声」を知ったとき、あなたが先導すべき「声なき声」も聴こえてくるだろう。
ストーリーテラーの内なる声とオーディエンスの声なき声が出会うときに、トライバルストーリーが生まれるのだ。
「芸術作品は作る者と見る者という二本の電極からなっていて、ちょうどこの両極間の作用によって火花が起こるように、何ものかを生み出す」
マルセル・デュシャン[芸術家]
デュシャンのように、あなたのサービスを再定義してみよう。
あるいはトイレに行くたびに「自分だったら便器をどう再定義するか?」と考えてみよう。
そうすれば、いつものトイレがクリエイティブな時間になる…かも?











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