人を動かす確率を56%高める「簡単」で「即効性」のあるストーリーテリングのテクニックとは?

    1. Writing

    時計台が午前0時の鐘を響かせるのを、1人の男が聞いていた。

    男の名はギル。

    真夜中のパリで迷子だった。

     

    アメリカから旅行で来たギルは、さっきまでワインの試飲会にいた。

    ワインの香りは、パリの街並みをより一層うっとりとさせた。

    せっかくのパリだ。

    夜のパリを堪能するために、ホテルまで歩いて帰ろう。

    そう思ったのが運の尽きだった。

     

    完全に道に迷った。

    こんな時間にはほとんど人もいないし、いても英語は通じない。

     

    パリの石畳を歩き回るうちに、ワインの渋みは舌の上からすでに消えていた。

    歩き疲れたギルの足は「もう休ませて」と言わんばかりに、ジンジンと鈍痛を響かせている。

    街路灯が誰もいない夜の街を琥珀色に照らし、ギルを心細くさせる。

     

    さて、困った。

    どうやってホテルまで帰ろう__。

     

    迷子なのは誰?

     

    これは映画『ミッドナイト・イン・パリ』の1シーンだ。

    僕はこの映画が大好きで、もう何回観たかわからない。

     

    あなたは迷子のギルをどう思っただろう?

    「酔って迷子になるなんてアホだなぁ」と思うかもしれない。

    だが、僕らはギルを笑うことはできない。

    なぜなら多くのストーリーテラーも、迷子になっているからだ。

     

    ギルがホテルに帰ろうとしたように、ストーリーテラーにも目的地がある。

    それはオーディエンスの心を動かすことだ。

     

    そのために僕らはストーリーテリングの知識を学ぶ。

    それはほとんどの場合「ストーリーの構成」についてだ。

    「出来事をどの順で語るか」を学べば、オーディエンスの心を動かせるはずだ…と。

     

    だが、あなたのストーリーが
    人の心を動かせないのは、なぜだろう?

     

    ちゃんと学んだ構成を使っているのに…。

     

    実は「ストーリーの型を使えば人の心を動かせる」という考えは、 プロッターの考えだ。

    確かに型を使えば、ストーリーを簡単に語れる。

    だがそれは型に酔っているだけだ。

     

    残念ながら多くの専門家は、プロッターが振る舞うワインに酔っている。

    そして道に迷い、「人の心を動かす」という目的地へ辿り着けないのだ。

     

    どうすれば、人の心を動かせる?

     

    今回は簡単で、即効性のある1つのテクニックを紹介しよう。

    僕がセンス・ハック・テクニックと呼んでいるものだ。

    センス・ハック・テクニックは、「ストーリーの型」の力を、適切に引き出す。

     

    例えば、このテクニックを使えば、あなたはオーディエンスに対して以下の効果を獲得できる。

    • 物語への没入感が2.5倍向上
    • 記憶定着率が最大15%向上
    • 理解度が最大30%増加
    • 共感度が40%以上向上
    • 感情的反応が最大50%増幅

    これらの結果は、ハーバード大学やワシントン大学の研究によって証明されている。

     

    また、心を動かすストーリーは トライブを形成することも、数々の研究でわかっている。

    つまりセンス・ハック・テクニックを使うことで、あなたはトライブを形成することができるのだ。

     

    今回はそんなセンス・ハック・テクニックについて、

    • オーディエンス
    • ストーリーテラー
    • 双方の関係

    という3つの視点で解説しよう。

     

    さて、センス・ハック・テクニックは、あなたのストーリーをどう変えるのか?

    その答えを知るために、迷子になったギルのその後を覗いてみよう。

    心に響いたら、そっとシェアを。
    あなたの1歩は、
    誰かの物語を動かす力がある。
    想いを届ける|シェアする

     

    第1章
    センス・ハック・テクニックとオーディエンス
    〜物語に没入させる方法とは?〜

     

    歩き疲れたギルは、道端に座り込んでいた。

    すると細い道の向こうから、1台のヴィンテージカーがやってきた。

    中には陽気な数人が乗っている。

     

    「さあ乗れよ!」

    車の中から1人の男が、ギルを誘った。

     

    ギルは車に乗り込んだが、その車がどこへいくのかわからなかった。

    だが車内で振る舞われたシャンパンの香りでまた酔いそうになり、もうどうにでもなれと思うのだった。

     

    やがて車が停止して、とある社交クラブについた。

    社交クラブには大勢がにぎやかに話している。

     

    ギルが呆然としていると、1人の女性が声をかけてきた。

    「迷子みたいね」

    女性はウェーブのかかったブロンドヘアで、黒いドレスを着ていた。

     

    ギルは戸惑いながらも、英語が通じる人がいて安心した。

    「いや…君はアメリカ人?」

    「アラバマもアメリカならね…仕事は何しているの?」

    女性はギルに尋ねた。

    「作家だよ。今は小説を書き始めてる」

    「ほんと?私の名前はゼルダよ」

     

    ゼルダはギルが作家だと知って嬉しそうだった。

    「スコット!来て、作家ですって!」

    ゼルダは1人の男を呼んだ。

    スコットはゼルダと同様ウェーブのあるブロンドの男で、グレーのスーツを着ている。

    とてもスマートだった。

     

    男はギルに握手を求めながら自己紹介した。

    「スコット・フィッツジェラルドです」

     

    人を動かしたいなら、
    読者をタイムスリップさせろ!

     

    スコット・フィッツジェラルドは小説『グレート・ギャツビー』を書いた100年前の作家だ。

    そう、100年前。

    ヴィンテージカーに乗り込んだギルは、100年前のパリにタイムスリップしていたのだ!

     

    『ミッドナイト・イン・パリ』は、小説家を目指すギルが、パリで100年前と現実を行ったり来たりするロマンティックコメディである。

    僕はこの映画を観るたびに思い出す言葉がある。

    「良いストーリーテリングとは、観客に向かって人生の出来事を語ることではなく、観客にその人生を経験させることだ」

    ジョン・トゥルービー[ストーリー・コンサルタント]

    よくできたストーリーは、まるで自分が体験した出来事のように感じる。

    ギルが1920年代へタイムスリップしたように。

     

    あなたも映画を観ている間、現実を忘れ、物語の世界に没入した感覚があるのでは?

    それは心理学でナラティブ・トランスポーテーションと呼ぶ。

    現実から物語の世界へ「運ばれる(transport)」ような感覚だ。

     

    ナラティブ・トランスポーテーションは、メッセージの説得力を43%向上させたり、オーディエンスの行動を変える確率を56%上昇させる働きがある。

    ナラティブ・トランスポーテーションには人を動かす力があるのだ。

     

    人を動かすための簡単なテクニックとは…

     

    そんなとんでもない心理技術を、あなたも使いたいだろうか?

    もちろん使いたいだろう。

    どうすればナラティブ・トランスポーテーションを起こすことができるのか?

    その方法の1つがセンス・ハック・テクニックだ。

     

    センス・ハック・テクニックとは、五感による感覚描写を加えること。

    五感による感覚描写を加えるだけで、オーディエンスにナラティブ・トランスポーテーションを起こすことができる。

    なぜなら、人間は五感によって世界を認識しているからだ。

     

    「でも文章で表現するだけで、本当に効果あるの?」

    …と、あなたは思うかもしれない。

    だが、効果は脳科学の実験で明らかになっている。

     

    ある実験では、参加者に2つの文章を読ませた。

    触覚の描写を加えた文章と、単なる動作を表した文章だ。

    文章1:「彼はビロードのように滑らかな肌に触れた」
    文章2:「彼はコインを持った」

    この時の脳の活動を調べると、興味深い事実が明らかになった。

    文章1を読んだとき、実際に皮膚の感覚を処理する感覚野が活性化したのだ。

    (ちなみに文章2では感覚野の活性化は見られなかった)

     

    このように感覚描写を読むだけで、実際に触れているように脳が反応することが証明されたのだ。

    そして五感の全てに、同じ結果が現れた。

     

    脳は賢いフリして騙されやすい奴なのだ…まったく。

     

    だがこの事実は、僕らにとってかなり重要だ。

    あなたはセンス・ハック・テクニックを使うだけで、オーディエンスを物語の世界へ強制的に引きずり込むことができるから。

     

    センス・ハック・テクニックは脳の自動的な処理にアプローチするので、オーディエンスは抗えない。

    五感を支配することで、ハッカーが遠隔でパソコンをハッキングするように、あなたはオーディエンスの脳を操作できる。

    感覚(センス)をハッキングするテクニックなのだ。

     

    もう少し具体例がほしい?

    それなら、この記事の冒頭の場面を、普通の文章とセンス・ハック・テクニックを使った文章を比較してみよう。

    【普通の文章】

    歩き回ったせいで、ギルは疲れてしまった。

    【センス・ハック・テクニックを使った文章】

    パリの石畳を歩き回るうちに、ワインの渋みは舌の上からすでに消えていた。

    歩き疲れたギルの足は「もう休ませて」と言わんばかりに、ジンジンと鈍痛を響かせている。

    どうだろう?

    感覚描写を加えるだけで、臨場感が増して感じたのでは?

    初読ではこの臨場感に気づかなかったかもしれない。

    だが比較すると違いは歴然だ。

     

    この箇所では、以下の3つの感覚描写を加えている。

    • 視覚(石畳)
    • 味覚(ワインの渋み)
    • 触覚(ジンジンと鈍痛)

    このようなセンス・ハック・テクニックの積み重ねが、物語の没入感(ナラティブ・トランスポーテーション)をつくる。

    あなたの脳は、いつの間にか真夜中のパリに連れ去られていたのだ。

     

    さて、ここまでセンス・ハック・テクニックがオーディエンスにどう働くかを見てきた。

    次はセンス・ハック・テクニックが、あなた自身をどう助けるかを明らかにしていく。

     

    ちなみに最強の武器に思えるセンス・ハック・テクニックも、実は弱点がある。

    この弱点を知らないと、逆にオーディエンスを失うのだが…

    詳しくは次の章へ任せるとしよう。

     

    第2章
    センス・ハック・テクニックとストーリーテラー
    〜落とし穴にはまらないために、あなたが知るべきこととは?〜

     

    ギルはフィッツジェラルド夫妻に連れられ、別のカフェに来ていた。

    さっきまでの社交クラブとは違い、こじんまりとして静かなカフェだった。

     

    スコット・フィッツジェラルドは、1人の男にギルを紹介した。

    「1人で飲んでいるところ失礼、作家のギルを紹介したい」

    男はがっしりとした体型で、黒髪と口髭を生やし、1人でウィスキーを飲んでいた。

    「ギル・ペンダーです」

    ギルが名乗ると、男も自己紹介した。

    「ヘミングウェイだ」

     

    ギルは、また言葉を失った。

    アメリカ文学の最高峰が目の前にいるのだ…!

     

    「どんな小説を書いてる?」

    ヘミングウェイがギルに尋ねた。

    「…古き昔の道具や、記念グッズを売る店で働いている男の話です」

     

    ギルは自分の小説の内容を話して、「しまった」と思った。

    以前、小説の内容を知人に話したら「それは現実からの逃避だ」とバカにされてしまったからだ。

    それ以来、ギルは自分の小説を誰にも見せることができなかった。

     

    「こんな話くだらないですよね?」

    肩をすくめてギルが尋ねると、ヘミングウェイは答えた。

    「何を書いてもいい。真実を語り、簡潔で窮地における勇気と気品を肯定する限りな」

     

    センス・ハック・テクニックを
    いつ使うべきか?

     

    自分のストーリーに自信のない人にとって、ヘミングウェイのこの言葉ほど心強いものはないだろう。

     

    ストーリーテラーにとってセンス・ハック・テクニックも、心強い武器になるだろう。

    だがあなたはこう思うかもしれない。

    「センス・ハック・テクニックの効果はわかった、でもいつ使えばいいの?」

    その問い対し、ヘミングウェイならこう答えるかもしれない。

     

    「いつ、どの五感を使ってもいい、ストーリーのテンポを崩さない限りな」

     

    つまりセンス・ハック・テクニックは「使い所を見極めれば、いつ、どこでも使える」ということだ。

     

    センス・ハック・テクニックの落とし穴

     

    「たくさんセンス・ハック・テクニック使っていきます!」

    とあなたは意気込んでいるかもしれない。

    だが、センス・ハック・テクニックにも弱点がある。

    それは物語のテンポを崩す可能性があることだ。

     

    もう一度、冒頭の場面を見てみよう。

    【普通の文章】

    歩き回ったせいで、ギルは疲れてしまった。

    【センス・ハック・テクニックを使った文章】

    パリの石畳を歩き回るうちに、ワインの渋みは舌の上からすでに消えていた。

    歩き疲れたギルの足は「もう休ませて」と言わんばかりに、ジンジンと鈍痛を響かせている。

    このようにセンス・ハック・テクニックを使うと、文章が長くなる。

    センス・ハック・テクニックを使いすぎると、逆に物語の推進力を失ってしまうのだ。

     

    人間の興味深い真実を共有しよう。

    この文章を読んでいる今も、あなたは1秒間に11,000,000個の感覚を受け取っている。

    そのうちあなたが意識できるのは40個だけ。

    実際に、注意を向けられるのは7つになる。

    (これは調子が良くて7つという意味だ。風邪を引いた日にはせいぜい2、3個程度だろう)

     

    つまり残りの10,999,960個の感覚は、意識から切り捨てられている。

    多すぎる感覚描写は、脳が受け止めきれず、捨てられるのだ。

     

    感覚描写を卵に置き換えて考えてみよう。

    あなたが僕に向かって、卵をたくさん投げつける場面を想像できるだろうか?

    僕は1つずつ卵をキャッチする。

    だが僕の手が卵でいっぱいになった時、僕は卵を落とすことになる。

     

    そのとき僕はどの卵を残して、どの卵を落とすかは選べない。

    一気に全部落とすのだ。

     

    センス・ハック・テクニックも同じだ。

    書きすぎた感覚描写は、オーディエンスが受け取れず、全部を捨てる。

    つまり読むのをやめるのだ。

     

    「じゃあセンスハックテクニックは、どの程度使えばいいの?」

     

    当然、あなたはそう思うだろう。

    ここではセンス・ハック・テクニックを使う指針をシェアする。

     

    主に以下の2つの場面を指針にしよう。

    ・場面設定
    ・感情表現

     

    場面設定

    ストーリーを語る際、場面設定を伝える必要がある。

    いつ、どこで、誰が、どのように、何をするのか。

    これらを伝えるときにセンス・ハック・テクニックが使える。

     

    例えばこの記事では、次の1行から始めた。

    時計台が午前0時の鐘を響かせるのを、1人の男が聞いていた。

    ストーリーの場面設定でセンス・ハック・テクニックを使っている。

    「時計台の鐘の音」という聴覚情報で、舞台が真夜中であることを伝えているのだ。

    その後すぐに、男の名前、場所はパリであることを簡潔に伝えた。

     

    だがここでセンス・ハック・テクニックを使いすぎると、どうなるだろう?

    時計台が午前0時の鐘を響かせるのを、1人の男が聞いていた。

    くしゃくしゃのブロンドヘアで、白いシャツに茶色いグレンチェックのジャケット、黒いズボンを履いている。

    男の名はギル。

    真夜中のパリで迷子だった。

    ギルはパリの道に接する半円状の白い石階段に座り込み、途方に暮れていた。

    本当なら、もうホテルでフカフカのベッドに寝転んでいるはずなのに…そう思いながらギルは固く冷たい石にもたれるしかなかった。

    先ほどすれ違った恋人たち(女性は長いストレートのブロンドで、チェックのシャツを着て小さなカバンを肩から斜めにかけていた。男性は短いブロンドヘアで白いシャツに黒いパーカーを着ていた)に道を尋ねても、英語が通じなかった。

    あの2人以外、すれ違う人はもういなかった。

    琥珀色に光る街灯が、道端の乗り捨てられ自転車を照らし、まるで自分を見ているようだとギルは心細くなる。

    たった1人のギルをわき目に、黒い車とシルバーの車が2台通り過ぎていく。

    車のエンジン音が聞こえなくなったとき、虚しく鐘の音だけが響く。

    そこに残ったのは、石畳の道から立ち昇る雨上がりの香りと、ギルだけだった。

    アメリカから旅行でパリに来たギルは、さっきまでワインの試飲会にいた。

    さて、ギルのジャケットは何色?

    きっとあなたの足元には、たくさんの卵が割れているだろう。

     

    すれ違った恋人や通り過ぎた車は、ストーリーに関係ない。

    関係ないものはセンス・ハック・テクニックを用いても、テンポを崩すだけなのだ。

    センス・ハック・テクニックは場面設定に必要なものに使おう。

     

    感情表現

    もうひとつ、センス・ハック・テクニックを効果的に使えるタイミングがある。

    それは感情を表現する場面だ。

    感情表現に感覚描写を加えることで、ストーリーの中の感情に臨場感が増すからだ。

     

    臨場感が増すと、オーディエンスも感情が動く。

    感情が動けばナラティブ・トランスポーテーションは強化される。

     

    冒頭の事例を見てみよう。

    歩き疲れたギルの足は「もう休ませて」と言わんばかりに、ジンジンと鈍痛を響かせている。
    街路灯が誰もいない夜の街を琥珀色に照らし、ギルを心細くさせる。
    だが車内で振る舞われたシャンパンの香りでまた酔いそうになり、もうどうにでもなれと思うのだった。

    これらの文章は、感情をセンス・ハック・テクニックによって伝えている。

    そうすることでテンポを維持しつつ、ナラティブ・トランスポーテーションを促しているのだ。

     

    ちなみにセンス・ハック・テクニックは下記の記事でシェアした【3フォーカスの法則】と相性がとてもいい。

    今回の記事と合わせて読むと、2つの記事の理解度が高まるはずだ。

     

    このように、センス・ハック・テクニックは以下の2つのタイミングで使うと効果的だ。

    • 場面設定を伝えるとき
    • 感情表現を伝えるとき

    あらかじめセンス・ハック・テクニックを使うタイミングを把握しておけば、ストーリーのテンポを失わずに済む。

     

    第1章ではセンス・ハック・テクニックがオーディエンスにもたらす影響を語った。

    そして第2章ではセンス・ハック・テクニックの使い方を、ストーリーテラー視点で語った。

    次の第3章では、ストーリーテラーとオーディエンスの関係について、センス・ハック・テクニックがどう働くのかを見ていこう。

     

    ギルも100年前のパリにトランスポートされて、少しずつ変化があったようだ。

     

    第3章
    センス・ハック・テクニックと関係構築について
    〜人を動かすメカニズムとは?〜

     

    ギルの恋人のイネズは、不審に思っていた。

    パリに来てから、自分の恋人の様子がおかしい。

     

    先日はギルが敬愛するフィッツジェラルドやヘミングウェイに会ったなどと、妄想めいたことを話してきた。

    きっとワインを飲み過ぎたせいだ。

     

    ところが、ギルの言動はますますおかしくなった。

    ある日はせっかくパリに来ているのに、一日中ホテルに引きこもって小説を書き続けた。

    聞けば「ピカソも制作に没頭した」と急にピカソ気取り。

     

    ダリに会ったと話した次の日には、「自分にはシュールな考えが足りない」と原稿を睨みつけていた。

     

    パリに来てから、ギルは毎晩のように夜のパリへ散歩に出かける。

    彼曰く「創作意欲が湧く」とのことだ。

     

    確かにギルは、以前にパリに住もうとして断念した過去がある。

    そんな愛するパリに来て、頭がおかしくなったのか?

     

    正直、ウンザリしてきた。

    そろそろロサンゼルスへ連れて帰ろうかしら…。

     

    ストーリーが人を動かすメカニズムとは?

     

    ギルは100年前にトランスポートした結果、現実の世界での行動が変化した。

    ピカソに影響されて創作に没頭し、ダリに影響されてシュールに考えようとしたのだ。

     

    ※読み飛ばしてOK
    ちなみに「シュール」の芸術的な意味は、「無意識の表現」を指す。
    つまり論理的な意味はなく、夢の世界のような感覚的な表現のこと。
    ダリの作品を見てみよう。
    論理的な人に、あんな作品は絶対に作れない…

     

    ギルの行動が変わったのは、芸術家たちと実際に関係が構築されたからだ。

    僕らは身近な人間関係の影響を最も受ける。

    だからオーディエンスに影響を与えたいなら、オーディエンスに身近に感じてもらう必要があるのだ。

    そのためにセンス・ハック・テクニックは役に立つ。

     

    センス・ハック・テクニックは、ストーリーテラーとオーディエンスの心理的な距離を縮めることができる。

    つまりあなたがセンス・ハック・テクニックを使えば、オーディエンスはあなたに親近感を感じるのだ。

     

    心理学ではこの現象をパラソーシャル効果という。

    パラソーシャル効果は、作家やYouTuberに対し、実際に関係を築いているように感じる心理現象だ。

    あなたも好きなYouTuberに親しみを感じるのでは?(実際に会ったこともないのに…!)

     

    では、なぜセンス・ハック・テクニックはパラソーシャル効果を生むのか?

    それは五感の刺激を共有することで、オーディエンスがストーリーテラーと心理的に同一化するからだ。

     

    感覚共有によって、文字通り「自分のことのように」喜んだり、悲しんだりできる。

    そういった共感の積み重ねで、親近感が生まれるのだ。

     

    親近感はオーディエンスに価値観の伝達を促進させる。

    そして価値観が伝達すれば、オーディエンスの行動を変えることもできる。

     

    ここで人を動かすメカニズムをまとめよう。

    センス・ハック・テクニックによって五感の刺激を共有する

    感覚共有によって心理的に同一化する(これを繰り返す)

    愛着と親近感が生まれる

    価値観の共有

    オーディエンスの行動が変わる

    ここまで来れば、オーディエンスはあなたのトライブの一員と言っていいだろう。

     

    センス・ハック・テクニックは小さなテクニックだが、大きな恩恵をあなたにもたらす。

    実際に会ったこともない人を、文章だけで友人にできるのだから。

     

    ギルも100年前へトランスポートした結果、現実が少しずつ変わっていく。

    いや、変わったのはギル自身だ。

    以前ならできなかったことが、今ならできるかもしれない。

     

    そんなギルをイネズはロサンゼルスへ連れ帰ることができるのか?

    それが難しいことは、あなたにもわかるだろう。

     

    ギルは夢にまで見たパリに住むことを決断する。

    100年前ではなく、今この現実を変えるために…。

     

    オーディエンスを連れ去る準備はできたか?

     

    さて、ここまでの話をまとめよう。

    • 物語への没入はトライブを形成する
    • 没入を促すために五感の感覚表現(センス・ハック・テクニック)が効果的
    • ストーリーのテンポを崩さないように使い所を見極める
    • センス・ハック・テクニックを繰り返すことでオーディエンスの行動を変えられる

    もしあなたがオーディエンスからの信頼と忠誠を獲得し、トライブを構築したいなら、センス・ハック・テクニックを使おう。

    なぜならセンス・ハック・テクニックは、ナラティブ・トランスポーテーションを起こすことができるからだ。

    オーディエンスをあなたの物語世界へ連れていこう。

     

    あなたの記憶を古いガラクタではなく
    未来の資産に変える方法とは?

     

    僕は映画『ミッドナイトインパリ』が大好きだ。

    それは過去(=歴史)は、偉大な師であるという、僕の価値観を思い出させてくれるから。

    「過去は私にとってカリスマなの」と言った、劇中のアドリアナに完全に同意する。

     

    しかしそれは過去を物語る技術があってこそだ。

    最後に、ストーリーテリングがあなたの過去に意味を与える仕組みをシェアしよう。

    センス・ハック・テクニックは、あなたをどう変えるだろうか?

     

    僕らは現在でしか生きれないが、過去に学ぶことができる。

    ギルが過去にトランスポートすることで、現在を見つめ返せたように。

     

    これが理解できれば、全ての体験が現在(そして未来)の資産になる。

    ただのガラクタに見えるようなオモチャも、人によっては価値のあるヴィンテージ品になるのと同じだ。

     

    例えばあなたの人生が失敗だらけだとしよう。

    でもその失敗を物語れば、誰かの役に立つ。

    あなたの失敗談から学ことができるからだ。

     

    あるいは、あなたが愛してやまないことがあるなら、それについて語ってもいい。

    筋トレが好きなら、筋トレの話をしてもいい。

    料理が好きなら、料理の話をするべきだ。

    そこに普遍的なメッセージを見出せばいい。

     

    「本当に自分の失敗とか、好きなものの話でいいの?」

    と思って筆がとまるなら、ヘミングウェイのあの言葉を思い出そう。

     

    「何を書いてもいい。真実を語り、簡潔で窮地における勇気と気品を肯定する限りな」

     

    ストーリーテリングは、全ての経験に意味を与える技術なのだ。

    意味のある過去があるのではない。

    過去の経験を通して普遍的なメッセージを伝えるから、過去に意味が生まれるのだ。

     

    もし人生に意味が見出せないなら、物語ればいい。

    あなたの過去が、目の前のオーディエンスの背中を押す。

    その瞬間、あなたの過去は資産になる。

     

    「過去は死なない、過去ですらない」

    ウィリアム・フォークナー[小説家]

     

    人生に意味を与えるのは、あなただ。

    「我物語る、ゆえに我あり」である。

     

    そう思えば、どんな体験だって歓迎できる。

    そしてどんな体験にも挑戦できる。

    なぜなら、その体験はオーディエンスを誘い込む新たな物語を作るからだ。

     

    大丈夫、センス・ハック・テクニックが、あなたを助けてくれる。

     

    もし面白い体験がしたいなら、パリに行ってみては?

    真夜中のパリは、魔法がかかるから。

    ほら、午前0時を告げる鐘の音が聞こえない?

     

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    遠藤ユウ

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    「我物語る、ゆえに我あり」を理念に、“売る”ためではなく、“あなたが生きた証を残す”ためのストーリーテリングを提唱。
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