1人の少女が世界を動かすために使ったストーリーの鉄則
『3フォーカスの法則』とは?

    1. Writing

    男が道路に飛び出してきた。

    そのせいでスクールバスの運転手は急ブレーキを踏んだ。

    ウールの帽子を被り、ハンカチを巻いて顔を隠した男が、バスに乗り込んでくる。

     

    男はバスの中を、鋭い目で見回した。

    誰かを探しているようだった。

     

    「これはクシャル・スクールのバスか?」

    男が運転手に聞いた。

    「そうです」

    と運転手は答えたが、おかしなことを聞く奴だな、とも思った。

    学校の名前は、車に書いてあるのだから。

     

    このバスはパキスタンの学校の送迎バスである。

    マララはそのバスに乗っている女の子の1人だ。

    マララがバスで学校から帰るようになったのは、ひとり歩きは危ないと、母親が心配するからだった。

     

    女性の教育に反対する過激派組織タリバンが、この街を支配するようになってからは、母親はますますマララを心配した。

    クシャル・スクールはマララの父親が設立した学校だった。

     

    「どの子がマララだ?」

    バスに乗り込んだ男が言った。

     

    皆は黙っていたが、何人かの目が、後ろの席に座っているマララを見た。

    男は黒いピストルを構えた。

    何人かが悲鳴をあげた。

    マララは隣の友達の手を、ぎゅっと握った。

    次の瞬間、3発の銃声が響いた。

     

    タリバンに撃たれた少女

     

    マララはタリバンに銃撃された。

    頭部に銃弾を受け、血を流して倒れた。

     

    その後、マララはロンドンの病院に送られ、奇跡的に一命を取り留めた。

    だが祖国パキスタンに戻ることはできなかった。

    あまりに危険すぎるからだ。

     

    「どうして私がこんなめに遭わないといけないの…」

    マララはそう思ったかもしれない。

    私はただ、学校に通っていただけなのに、と。

     

    マララのニュースは世界中に広まった。

    するとマララの回復を願う手紙が、世界中から届くようになった。

    大臣、外交官、政治家がマララに会いに来ることもあった。

    世界中のセレブもマララを応援した。

    ビヨンセはカードを送り、facebookにその写真を投稿した。

    セレーナゴメスはTwitter(現X)にマララのことを書き綴った。

     

    マララのような女の子は、そうはいない。

    そう思うだろうか?

    実は違う。

     

    6600万人のマララたち

     

    世界全体で、学校に通えない少女は6600万人もいる。

    マララはそのうちの1人にすぎない。

    だがこの1人の少女が、のちに世界を動かすことになる。

     

    自分に届くメッセージを読むたびに、マララはこう思うようになった。

    「本当なら死ぬはずが、皆に生かされた」

    「教育を受けられない女の子のために、第二の人生を捧げなければ」

     

    そしてマララにそのチャンスが巡ってきた。

     

    マララが奇跡的に回復してしばらく経ったとき。

    国連でスピーチをする機会を与えられたのだ。

     

    マララは自分のメッセージで、世界を動かす決意をした。

    世界中の女の子が、高い教育を受けられるよう訴えねば。

     

    さて、どうすれば世界を動かせるだろう?

     

    恥の告白…
    この記事は僕の戒めでもある

     

    初めてマララを知ったとき、僕は自分が恥ずかしくなった。

    「当たり前」という幸せをダラダラと享受している自分を、惨めに思ったから。

     

    マララはわずか15歳で生死を彷徨った。

    その後、世界を変えるために国連の場に立った。

    僕にとっての「当たり前」を実現するために、マララは命をかけていた。

     

    自分が教育を受けていること。

    命を落とす危険がないこと。

    この「当たり前」があるからこそ、僕らは自分の人生を生きることができる。

     

    この幸福を全うするためにも、僕はこの記事を書かなければ。

    マララという少女がいることを、そして彼女が命を懸けて紡いだストーリーを、あなたに伝えたい。

    これは「当たり前」に甘えていた自分への戒めでもある。

     

    世界を動かすストーリーの鉄則
    【3フォーカスの法則】とは?

     

    あなたならマララに共感するはずだ。

    なぜなら、どうすれば人を動かせるかを、常に考えているだろうから。

     

    マララも同じように考えた。

    そして父親と祖父のことを思い出した。

     

    実家では、父親の話を聞こうと多くの人が訪れていた。

    その人たちと一緒に、マララも夢中になって話を聞いた。

     

    「部族間の戦いやパシュトゥーンの族長、賢者などの話を父がするのを、私もうっとりと聞いていました。
    父は歌うような節をつけて詩を吟じることが多く、涙をこぼしていたときもありました」

     

    当時を振り返り、マララはそう語っている。

     

    マララの祖父も語り部だった。

    モスクの道士だった祖父の話を聞くために、ロバに乗って山奥から多くの人が集まっていた。

     

    マララはそんな父親や祖父のようになりたかった。

    だから弁論大会に出場したり、演説のスキルを磨いた経験があった。

     

    国連の演壇で、人の心を動かすには何が必要か?

    マララは知っていた。

    優れたストーリーが最も重要だと。

     

    ストーリーテラーの家系に生まれ、ストーリーを聞いて育ったマララは、生粋のストーリーテラーだった。

    だからこそ、心を動かすストーリーの鉄則を身につけていたのだ。

     

    マララのスピーチはYouTubeで視聴することができる。

    ぜひ視聴してみてほしい。

     

    ここでは、マララが実践したストーリーの鉄則を紹介する。

    僕はこの鉄則を【3フォーカスの法則】と呼んでいる。

    【3フォーカスの法則】を理解すれば、あなたも人の心を動かすストーリーを語れるようになるだろう。

     

    【3フォーカスの法則】とは、ストーリーテリングの場面でフォーカスすべき3つの要素だ。

    それが以下の3つである。

    • Situation(シチュエーション)
    • Emotion(エモーション)
    • Personalization(パーソナライゼーション)
    心に響いたら、そっとシェアを。
    あなたの1歩は、
    誰かの物語を動かす力がある。
    想いを届ける|シェアする

    Situation-シチュエーション・フォーカス

    観客が演劇を鑑賞するためには、舞台が必要だ。

    ストーリーテリングにおいて舞台を設定するのが、シチュエーションである。

     

    実はシチュエーションには2つの種類がある。

    • トライバルストーリーにおけるシチュエーション
    • エピソードにおけるシチュエーション

    2つのシチュエーションの違いを明確にすれば、ストーリーテリングの全体像が見えるだろう。

     

    トライバルストーリーにおけるシチュエーション

    あなたがストーリーを語るのは、あなたのメッセージによって、オーディエンスの現状を変えることが目的ではないだろうか?

    もしそうなら、オーディエンスは「なぜあなたのストーリーを聞くべきか」を理解しなくてはいけない。

     

    マララの場合は「6600万人の女の子が教育を受けることができない(そしてその現状を変えるべきだ)」というシチュエーションが全ての話の基盤になっている。

    この前提となるシチュエーションに共感した人が、マララの トライブの一員になるのだ。

    そしてこのトライブを構築することが、ストーリーテラー最大の目的である。

     

    あなたの活動は、どんなシチュエーションにおいて意味を持つのかを、オーディエンスに明確に伝えなければいけない。

    明確なシチュエーションにフォーカスするのだ。

     

    だが、トライバルストーリーにおけるシチュエーションを理解してもらうだけでは足りない。

    トライバルストーリーに心を動かし、実感し、深い共感をしてもらう必要がある。

    そのために、もうひとつのシチュエーションフォーカスが必要になる。

     

    エピソードにおけるシチュエーション

    「6600万人の女の子が教育を受けれていない」という状況は分かった。

    だが、その状況がどれだけ悲惨な場面かを、オーディエンスはまだ知らない。

    具体的な場面がわからなければ、オーディエンスがこちらのメッセージに意識を向けることはないのだ。

     

    どうすればオーディエンスに具体的な場面を共有できるだろう?

    「6600万人の女の子が教育を受けれていない」ことを象徴する、具体的な場面を切り取って物語ればいいのだ。

    なぜなら、特定の場面の詳細を具体的にフォーカスするほど、オーディエンスはその世界に没入するから。

     

    マララは著書『わたしはマララ』のなかで、学校に通えずゴミ山で働く子供を見た場面を、具体的に語っている。

    「ある日、弟たちが出かけているときに、母に、ジャガイモの皮と卵の殻を捨ててきてちょうだい、といわれた。

    わたしは鼻にしわをよせて、ごみの山に近づいていった。

    ハエを追はらいながら、お気に入りの靴で汚いものを踏まないように気をつけていた。

    持ってきたごみを腐りかけた食べものの山に放り投げたとき、なにかが動いたのに気がついて、はっとした。

    女の子だった。

    わたしと同い年くらいだろうか。

    髪はばさばさで、顔は傷だらけ。

    村できかされた怪談に出てくるシャシャカのイメージそのままの姿だった。

    大きな袋を持っていて、ごみをより分けている。

    空き缶、ビンのふた、ガラス、紙。

    近くには男の子も何人かいて、ひもをつけた磁石を使って金属を釣り上げている。

    わたしはその子たちに話しかけてみたかったけど、怖くてできなかった」

    :書籍『わたしはマララ』より

    この場面では教育を受けれない子供が、どんな生活をしているかが目に浮かんでくるのでは?

    ハエがたかり、ツンと鼻をつく悪臭。

    ごみ山で働く女の子の風貌。

    ごみを漁る様子。

    靴を汚さないようにするマララと、働く女の子との対比。

    女の子に興味を持ちつつ、恐怖するマララの感情。

    これらの具体的な情報が、あなたに「子供が教育を受けられない」ことが、どういう状況なのかを教えてくれる。

     

    では、僕らはどうすればマララのように具体的なシチュエーションを語れるのだろう?

    シンプルに考えよう。

    その場面を、オーディエンスが頭の中で映像化できれば合格だ。

    そのためにはクラシックな手法が時を超えて役にたつ。

    5W1Hだ。

    「When(いつ)」
    「Where(どこで)」
    「Who(だれが)」
    「What(なにを)」
    「Why(なぜ)」
    「How(どのように)

    これらを語れているか、あなたのセルフチェックに使ってほしい。

     

    ここでひとつ、言っておきたいことがある。

    「具体性」を恐れるな。

     

    ライティングにおいて、具体性を省こうとする人が多い。

    無駄が増えていき、文章が冗長になることを恐れるからだ。

    無駄を取り除くことは賛成する。

    だが具体性は無駄ではない。

     

    あなたがディズニーランドに行ったことがあれば、具体的な詳細が世界観の没入を創ることを実感できたのではないだろうか?

    そう、小さな細部の作り込みが、大きな世界観を支えているのだ。

    (あの夢の国は何度行っても感動する。そしてまた行きたくなるのだ…)

     

    ただし、詳細を書くことに執着して、ストーリーのテンポが悪くなるのは避けたい。

    このバランスに関しては、下記記事で触れているので参考にしてほしい。

     

    シチュエーションフォーカスの大切さは理解できた。

    ではどんなシチュエーションを選べばいいだろう?

    その鍵を握るのが、エモーション(感情)である。

     

    Emotion-エモーション・フォーカス

    あなたの人生で、最も記憶に残っている出来事を思い出してほしい。

    …それは最も感情が動いた瞬間では?

    その理由を説明しよう。

     

    僕らの脳は、外からの情報と内なる感情を結びつけて、記憶を強化する神経メカニズムを持っている。

    つまり感情を動かすほど、頭の中に情報が刻み込まれるというわけだ。

     

    そしてストーリーは、最も感情を動かすコミュニケーション方法である。

    (これで僕が授業で習った数式より、映画の内容の方を覚えていることの説明がつく。僕が数学が嫌いだったのは、物語性がないからだ…ということにしておこう)

     

    優れたストーリーテラーは、記憶の神経メカニズムをコントロールし、オーディエンスの感情を支配できる。

    ストーリーテラーは、オーディエンスの感情が動くのを待ちはしない。

    こちらから感情を動かす仕掛けを、ストーリーの中にそっと隠しているのだ。

     

    では感情にフォーカスするには、どうすればいいだろう?

    ここでは2つのヒントを紹介する。

    1. 根源的感情にフォーカスする
    2. 内的変化にフォーカスする

    1:根源的感情にフォーカスする

    恐れ、好奇心など根源的な感情にフォーカスすべきである。

    なぜなら、これらの感情は本能に根ざしたもので、心への作用が大きいからだ。

     

    そして根源的な感情を呼び覚ますのが「危機、問題」である。

    「この危機をどう乗り越えるのか?」
    「もし自分に同じ問題が起きたとしたら…」

    といったように「危機、問題」は、恐怖心、好奇心、損失回避欲求など、根源的感情を刺激することができる。

     

    根源的な感情にフォーカスすれば、物語るべきシチュエーションも自動的に発見できる。

    あなたが語るストーリーにおいて、最も感情が動くであろう「危機、問題」のシチュエーションを選べばいいからだ。

     

    マララは故郷の情景でもなく、ロンドンの入院生活でもなく、タリバン襲撃を中心に語った。

    それは最も感情を動かすシチュエーションだと、マララが判断したからだ。

    そしてその選択は正しかった。

     

    しかし「感情を刺激するシチュエーション」を説明するだけでは足りない。

    出来事を羅列するのは プロッターである。

    ストーリーテラーは出来事を語る際、必ず内的変化をセットで語るのだ。

     

    2:内的変化にフォーカスする

    あなたにもこんな経験はないだろうか?

    大事な結果発表を目前にして緊張している友人を見ていたら、いつの間にか自分まで緊張してきた経験が。

    そう、感情は伝染するのだ。

     

    これは脳科学の実験でも明らかになっている。

    この感情伝染の犯人は、僕らの脳に住んでいるミラーニューロンという神経細胞である。

    ミラーニューロンは「他人の心理状況を自分に反映させる」という興味深い働きをする。

     

    つまりオーディエンスの感情を動かしたいなら、感情が動いている人間を見せればいいわけだ。

     

    シチュエーションを決めたら、出来事に反応する人物の感情を表現しよう。

    大事なのは「外的状況」だけでなく、「内的状況」を表現すること。

     

    タリバン襲撃という出来事は、それだけでショッキングな出来事だ。

    だが、この出来事に対し「マララが何を考え、内面がどう変化したのか」の方が重要である。

    なぜならタリバン襲撃という出来事より、襲撃に対する恐怖心やそこへ立ち向かう勇気に、僕らは共感するからだ。

    あなたにも(タリバンほどではないにしろ)恐怖に立ち向かった経験があるはずだから。

     

    ここで、一般的にはあまり知られていない真実を話そう。

    実は「客観的に感情的な状況」などは存在しないのだ。

    例えば、銃撃されたとしても、自分の内面に変化がなければ物語る意味はない。

    対して、木の葉がヒラヒラと落ちるような小さな出来事でも、あなたの感情を強く動かしたなら、物語るに値する出来事だ。

    この真実を多くの人は見逃している。

     

    ストーリーテラーなら根源的な感情を呼び起こすシチュエーションと、それに反応する人物の内的状況にフォーカスしよう。

    そして忘れてはいけないのが、シチュエーション(場面設定)とエモーション(感情)を結びつける存在。

    主人公だ。

     

    Personalization-パーソナライゼーション・フォーカス

    ストーリーには主人公が必要だ。

    オーディエンスが感情移入できる主人公が。

    では感情移入できる主人公は、どんな要素を持っているのだろう?

     

    結論から話そう。

    それは「ある問題を解決しようと葛藤する1人の人物」である。

     

    「問題」と「葛藤」に関しては、シチュエーションとエモーションのことだ。

    ここで注目したいのは「1人の人物」である。

     

    オーディエンスを主人公に感情移入させるためには、感情移入する対象を1人に絞るべきだ。

    ストーリーテリングにおいて、主人公のパーソナリティ(欲求と問題)を表現することで、感情移入を促すことができるから。

    情報としての登場人物ではなく、はっきりと顔が見える生きた人間を描くのだ。

     

    考えてみてほしい。

    「パキスタンに住む1人の少女に起きた悲劇」と「6600万人の少女たちに起こっている悲劇」のどちらに心を乱されるだろう?

    片方に比べれば、登場人物は6600万倍もいる。

    当然、心の痛みも6600万倍あると考えるのは理にかなっているはずだ。

     

    だが現実は違う。

    実は1人の悲劇の方が、心を動かされるのだ。

    これは直感に反するストーリーテリングの性質である。

     

    なぜ、このような現実が立ち現れるのだろう?

    実はあなたはもう答えを知っている。

    そう、具体性だ。

     

    6600万人の物語より、1人の物語の方が具体的なのだ。

    僕らは6600万人という数字に感情移入できない。

    たった1人の人間に感情移入するのだ。

     

    「1人の死は悲劇だが、100万人の死は統計である」

    という言葉が、この現実をうまく表現している。

    客観的で一般性のある情報に、脳は反応しないのだ。

     

    実際にこの現象は、脳科学的にも明らかになっている。

    「一般性の問題は、まったく不明瞭で、持久力がないということだ。

    今何が起きているかを特定してくれないので、予想、次に起きる出来事の見当がつけられない。

    読み続けるための好奇心を持続させる、心地よいドーパミンの放出も抑えられてしまう」

    :リサ・クロン[ストーリー・コンサルタント]

    ドーパミンは快楽物質とも呼ばれる、脳の神経伝達物質だ。

    僕らはドーパミンが放出されることで、意欲や集中力が増す。

    さらにドーパミンは、記憶の処理にも影響を与えることが分かっている。

     

    つまり惹き込まれるストーリーは、ドーパミンを放出させるストーリーなのだ。

    だが、一般性はドーパミンを抑えることが分かっている。

    特定の個人について語ることは、ドーパミンを放出させる有効な手段だ。

     

    だから主人公は1人にフォーカスすべきである。

    主人公を増やすほど、一般性が増してしまう(つまりドーパミンは抑制される)からだ。

     

    プロッターはなんでも「多ければ多いほど良い」と考えている。

    だが真実は逆である。

     

    僕はこの話をするとき、いつも思い出す言葉がある。

    「Less is more(少ないことは豊かである)」

    :ミース・ファン・デル・ローエ[建築家]

    ストーリーテラーならこのLess is moreの精神を忘れてはいけない。

    心を動かすストーリーの力学では、主人公は、

    「1人>>>3人>10人>50」

    …で表されるのだ。

     

    念の為に言っておくが、登場人物を1人にしろ、という事ではない。

    登場人物は複数人いることもある。

    だがオーディエンスが感情移入する主人公は1人であるべきだ。

    この点は間違えないよう注意しよう。

     

    3つのうちひとつでも欠けたら
    ストーリーは死ぬ

    3フォーカスの法則は、掛け算の関係にある。

    シチュエーション×エモーション×パーソナライゼーション=心を動かすストーリー

    つまり3フォーカスのうちひとつのフォーカスが欠ければ、心を動かすストーリーにはならないのだ。

     

    シチュエーション×エモーションの場合

    パーソナライゼーションが欠ければ、オーディエンスはストーリーに感情移入できない。

    例えば、地球温暖化が進むことの危険について、あらゆるデータを使って恐怖心を刺激したとしよう。

    オーディエンスは地球温暖化が危険だと理解はできる。

    だが個人的な被害として、重ね合わせる対象がなければ心の琴線に触れることはできない。

     

    エモーション×パーソナライゼーションの場合

    シチュエーションが欠ければ、抽象的な感情論になり、具体性がなくなる。

    マララがひたすら感情的にスピーチしても効果はなかっただろう。

     

    1人の人間の感情論は、ただの独り言である。

    シチュエーションを設定することで、ストーリーはオーディエンスを巻き込む力を持つのだ。

    具体的な場面を想像させることで、オーディエンスはストーリーを追体験できるのだから。

     

    パーソナライゼーション×シチュエーションの場合

    エモーションが欠ければ、オーディエンスの記憶に残らない。

    教科書の年表のように、事実を連ねても心は動かないのだ。

    (あなたも教科書で感動した覚えはないはずだ…)

     

    ただの説明になってはいけない。

    説明は感情を抑えることが、あらゆる実験で証明されているからだ。

    ストーリーと説明書の違いは、感情を動かすかどうかである。

     

    ちなみに「客観的な状況の描写だけで感情を伝える」という高度な技巧もある。

    だが最終的にオーディエンスの感情を動かすことを目的にしている点は変わらない。

     

    ストーリーで失敗したくない?

    それならまずは感情を伝えることにフォーカスすることをオススメしよう。

     

    3フォーカスの法則をまとめると、以下のように表現できる。

    「あるシチュエーションに置かれたキャラクターの感情を物語る」

    これがストーリーテリングの鉄則である。

     

    1人の少女のストーリーが
    世界を大きく揺り動かす

    マララが国連でのスピーチを終えると、スタンディングオベーションが巻き起こった。

    会場は割れんばかりの拍手の渦に包まれた。

    その場の誰もが、心を動かされた何よりの証拠だった。

     

    いや、心を動かされたのは、国連の場にいた人だけではない。

    マララは世界中の有名人の心も動かしたのだ。

    女優のアンジェリーナ・ジョリー(マララは昔から彼女のファンだった)は、マララ基金に20万ドルを寄付した。

    歌手のマドンナは背中にマララとタトゥーを入れ、コンサートでマララに捧げる歌を歌った。

     

    さらに、マララの著作『わたしはマララ』は、1年以上もニューヨークタイムズのベストセラーリストに入り続けた。

    (翻訳本も出版されているので、ぜひ読んでみてほしい。マララの並外れたストーリーテリングを体感できる)

     

    マララのストーリーは、文字通り世界を動かしたのだ。

     

    マララは6600万人の見えなかった顔を、ストーリーによって浮かび上がらせた。

    6600万人の声なき声を、ストーリーによって世界へ届けたのだ。

    その功績が認められ、2014年12月10日、17歳になったマララは、オスロで史上最年少のノーベル平和賞を受賞した。

     

    国連でのスピーチも素晴らしいが、ノーベル平和賞受賞スピーチも素晴らしい。

    このスピーチも、3フォーカスの法則が使われているので、ぜひ視聴することをオススメする。

     

    さて、ここでひとつ、あなたに問いたい。

     

    マララが世界を動かしたのは
    単なる偶然だろうか?

     

    もちろん3フォーカスの法則は強力だ。

    だがそれだけで世界を動かせるわけではない。

    3フォーカスの法則をさらに強力にする、最後のピースがあるのだ。

     

    一度は生死の境を彷徨った少女が、奇跡的に回復し、世界を動かすまでになった。

    この物語は、ある物語に似てると思うのでは?

    そう、イエス・キリストの物語だ。

    イエスは天の導きによって、死から復活し、神の国へ昇天した。

     

    マララの物語にも、なにか運命的な導きがあるように感じるのは、僕だけだろうか…?

    この直感を紐解く鍵は、他でもない「マララ」という名前に隠されていた。

     

    マララという名前に隠された
    運命のいたずら
    (あるいは3フォーカスの法則を強力にする最後のピースとは?)

     

    「悲しい名前ではないか。悲しみや苦しみを思い起こさせる名前だ」

    マララの祖父はそう言って、息子が孫娘にマララという名前をつけることに反対した。

     

    マララという言葉には「悲しい」という意味がある。

    生まれた時から悲しみを背負って生きてきたマララ。

    だから運命はタリバンの姿で、彼女の前に立ち塞がったのだろうか?

     

    いや、そうではないはずだ。

    「悲しみ」の奥には、光がある。

     

    マララ(悲しみ)とは、マラライという女性の名前が由来と言われている。

    マイワンド(アフガニスタンの土地)のマラライは、戦場で負傷兵の看護をしていた少女だった。

     

    そのときアフガン軍は押されていた。

    そしてマラライは軍騎手が殺され、倒れるのを目にした。

    次の瞬間、マラライは自分の被っていた白いベールを空高くかかげ、軍旗の代わりに風になびかせながら前線に踏み出した。

    「愛すべき仲間よ!」

    マラライは戦場の仲間のために叫んだ。

    「このマイワンドの地で死ぬ覚悟はないのですか。生きながらえて恥をさらすつもりですか」

    そう仲間に呼びかけ、マラライは敵軍へ向かって駆けた。

    いくつもの仲間の死体を乗り越え、腐敗臭に満ちた戦場を必死に走った。

    白いベールは風に強くなびいていた。

     

    …が、マラライは敵軍に撃ち抜かれた。

    ベールが手から地面に落ち、マラライも倒れた。

    戦場を駆けた少女は、無惨にも撃ち殺されてしまったのだ。

     

    だがマラライの言葉は、アフガン兵たちを奮い立たせた。

    そしてアフガン軍は勢いを取り戻し、敵軍を全滅させたのだ。

     

    マイワンドのマラライはアフガニスタン版のジャンヌ・ダルクである。

    悲しい最期であったが、抑圧された人々の声となったのだ。

     

    そんな英雄の名前を、マララは受け継いでいた。

    マララの父親は、「悲しみ」の奥に隠された「勇気」をマララに見ていたのだろう。

     

    「私が赤ん坊の頃、父はよく歌を歌ってくれた」

    とマララは話している。

    その歌はこう締められていた。

    ああ、マイワンドのマラライよ

    いま一度目を覚まして、
    パシュトゥン人に誇りの歌を歌ってください

    あなたのつむぐ言葉が世の中を変えるのです

    お願いです、いま一度目を覚ましてください

    そうしてマララはロンドンの病室で目を覚ました。

    と同時に、マララの中に眠っていた勇気も目を覚ました。

    そしてマララのつむぐ言葉が、世界を変えたのだ。

     

    今やマララは「タリバンに撃たれた少女」ではない。

    「教育」「回復」「勇気」の象徴として、声なき人々の声となっている。

     

    このマララのストーリーは、英雄の アーキタイプを呼び覚ます。

    マララは強力な英雄型のブランドを体現しているのだ。

     

    マララのように、自分自身が特定の物語の象徴になることが、ストーリーテラーの究極型である。

    「我物語る、ゆえに我あり」とは、そういう意味でもあるのだ。

     

    そのためには、自分が辿ってきた物語の力を借りる必要がある。

    あなたはどんな物語の象徴になりたいだろうか?

     

    象徴とはキャラクター(=ブランド)である。

     

    マララは勇気を象徴する、英雄型のキャラクターだ。

    そしてあなたにも象徴する物語があるはずだ。

    そのキャラクターこそが、3フォーカスを強力にする最後のピースである。

     

    3フォーカスの法則はキャラクターを伝えるツールだ。

    あなたのキャラクターを知るためにも、本メディアのcharacterizingカテゴリーの記事を読んでみてほしい。

     

    「自分には象徴する物語なんてないよ」

    もしあなたがそう思っているなら、安心してほしい。

    あなたにも必ず物語はある。

     

    大切なのは、その物語を見出す眼を養うことだ。

    そして学ぶことで眼を養うことができる。

     

    世の中には「簡単に〇〇できる」というプロッターによる甘い言葉が溢れている。

    だがそれは嘘だ。

    大切なことほど、決して簡単ではない。

    楽な道へ誘導する言葉は、人々から教育を奪う行為でもある。

     

    ここまで読んでくれたあなたは、向学心のある賢明な人のはずだ。

    だからプロッターの言葉に騙されないでほしい。

     

    プロッターは本質的にタリバンと同じである。

    プロッターはあなたが知識をつけることを恐れている。

    だからあなたを教育から遠ざけたいのだ。

    「ジャーナリストが私の学校の男の子に「タリバンはなぜ教育に反対しているのか」と尋ねたことがありました。

    男の子の答えは単刀直入でした。

    本を指さして「タリバン兵はこの本に何が書いてあるか知らないからだ」と言ったのです」

    :マララ・ユスフザイ[人権活動家]

    マララを撃ったタリバンの男を覚えているだろうか?

    男のピストルを持つ手は震えていたそうだ。

     
    タリバンもプロッターも、学ぶことから逃げている。

     

    僕らは学ぶことで自由になる。

    僕らは学ぶことで過去を、現在を、そして未来を変えることができる。

    それは今日の1冊の本から、1本のペンから、少しずつ変わっていくのだ。

    「1人の子ども、1人の教師、1冊の本、そして1本のペンが、世界を変えられるのです。

    教育以外に解決策はありません。

    教育こそ最優先です」

    :マララ・ユスフザイ[人権活動家]

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